植物におけるシステミック調節

 

植物は、動物の神経のような長距離のシグナル伝達機関を持ちません。しかし、植物にも、ある部位での刺激が、他の部位の生理的応答を引き起こすことがあります。このような生理的応答は、システミック調節(Systemic regulation)と呼ばれています。

 

近年のいくつかの研究では、葉の形態がシステミック調節を受けていることが示されています。Lake et al. (2001)は、Arabidopsisで成熟葉の光、CO2環境が新しく作られる葉の気孔密度を調節していることを示しました。彼らは、若い葉自身の環境はその気孔密度に影響を与えないことも示しています。Thomas et al. (2004)やMiyazawa et al. (2006)でも、同様の結果が報告されています。さらに、Yano and Terashima (2001)では、シロザの若い葉の柵状組織の分裂方向が、成熟葉の光環境によって調節を受けていることを示しています。

 

各葉の光合成速度も、植物の他の部位の環境の影響を受けています。Pons and Pearcy (1994)では、ダイズの葉の一枚のみを被陰した時の、その葉の光合成速度の低下について調べています。1枚のみを被陰した場合には、植物全体を同程度に被陰した場合と比較して、光合成速度の低下が速く起こりました。Weaver and Amasino (2001)も、Arabidopsisを用いて同様の結果を報告しています。これらの結果は、ある葉の光合成速度が、その光環境だけでなく、他の葉の光環境の影響を受けていることを示唆しています。このような調節は個体全体での光合成速度を増加させるために重要な働きを持ちます。しかし、他の葉の光環境がある葉の光合成速度に影響を与える仕組みについてはほとんど分かっていません。

 

光環境の受容の仕組みは何か?

 

葉の光環境の受容とそのシグナリングについては、3つの候補メカニズムが存在します(図1)。1つは他の場所で述べた炭水化物、もう1つはフィトクロム、クリプトクロム(cryptochrome)、フォトトロピン(phototropin)などの光受容体、そして光化学系の酸化還元度です。

 

図1: 光が植物細胞に与える影響

葉に強い光が当たると、①光受容体が活性化され、②炭水化物が蓄積し、③光化学系が還元される。

光受容体と光合成

 

光受容体は種子の発芽、気孔開閉、光屈性、葉緑体運動で重要な役割を果たしています(Franklin et al. 2005)。光受容体に関しては、日本にはたくさん偉い先生方がいらっしゃるので、細かいことは割愛して光合成に関与することだけココに記載します。

 

僕が大学生だった頃には、フィトクロムが葉の老化に関与している可能性がある、と教えられました。群落では、光合成のために上部の葉で可視光が吸収されます。一方、赤外光(Far red、FR、730 nm前後の光)は比較的吸収されずに群落の下部まで到達します。したがって、上部の葉では葉に当たる赤色光/赤外光の比(R/FR)が高くなるのに対し、下部の葉のR/FRは低くなります。この低下がフィトクロムを介して葉の老化を促し、群落内での各葉の窒素分配を形成しているのではないか、と考えられていたようです(図2)。実際に、FRのみを反射する鏡を用いて、下部の葉のR/FR比が低くなるような処理をしてやると、群落ではなく一個体で栽培されている植物(ヒマワリ)でも下部の葉の老化が促進される、という報告もあります(Rousseaux et al. 1996, 2000、ただし、FRは光化学系Iに吸収されて光化学系の状態にも影響を与えます)。

 

一方、ArabidopsisのphyB mutant(安定型フィトクロムの変異体)の葉の老化は野生型株と変わらないという報告もあります(Smith and Whitelam 1997)。フィトクロムは弱光環境においてもPfr(活性型フィトクロム、活性型、というのは良くないとも言われているみたいですが)に変化し、場合によっては分解されてしまいます(phyA、超弱光応答型)。したがって、フィトクロムは光があるかないか、の判断に利用されているケースが多いように思います。太陽が出ているような強い環境下での調節に働いている、と考えるのはかなり難しそうです。

 

青色光受容体であるクリプトクロムやフォトトロピンは、気孔の開閉、胚軸伸長、葉緑体の定位などに関与していることが知られています。気孔の開閉、葉緑体の定位はそれなりに強い光環境下で調節されているものなので、フィトクロムよりは強光環境下の光受容メカニズムとして重要な役割を持つ可能性が高そうです。葉緑体の定位運動を止めると強光下でgiが低下しない、という報告もあり(Tholen et al. 2008)、青色光受容体はgiを介して光合成に影響を与える可能性があります(が、彼らの論文ではphot2変異体のgiには変化が見られなかったようです。ちゃんと読んでないので詳細は論文で確認して下さい)。しかし、青色光のシグナルは細胞を超えて伝わることは無いようです(Tlafka et al. 1999、どういう論文か忘れました)。したがって、システミック調節において、青色光受容体はほとんど役割を持たないのではないか、と、僕は考えています。