炭水化物の蓄積と光合成

光合成のフィードバック阻害

 

一般的に、葉に炭水化物が蓄積すると、光合成速度は低下します。このような炭水化物による光合成速度の低下は「光合成のフィードバック阻害(feedback repression of photosynthesis)」や「糖による光合成の抑制(sugar repression of photosynthesis)」と呼ばれています。光合成のフィードバック阻害の研究は古く、1860年代からこのようなことが起こる可能性については議論されていたようです(Boussingault 1868)。僕の知っている具体的な研究例を以下にあげておきます。

 

 

フィードバック阻害の研究例

 

 Thorne and Koller (1974)はダイズの葉を被陰しておくことでその葉に含まれるデンプン量が20%まで低下し、その光合成速度が上昇することを示しています。1990年前後には、Max Plunck研究所のStittらが細胞壁のインベルターゼ(スクロースをグルコースとフルクトースに分解する酵素)を過剰発現するタバコを作成しました。この植物では、アポプラストでスクロースが分解されてしまうために篩管への積み込みがうまく起こりません。その結果、葉の炭水化物含量が増大しますが、同時に葉面積あたりの光合成速度が低下することがわかりました(Schaewen et al. 1990, Stitt et al. 1991)。その後Krappら(1991)はホウレンソウの葉柄からグルコースを吸わせると、その葉の光合成速度が低下することを示しています。彼女達はさらに、葉柄を冷やす処理(Cold girdling)を行うことでシロザ(Chenopodium album)の葉に炭水化物が蓄積させ、その光合成速度が低下することを示しています(Krapp et al. 1995)(余談ですが、このcold girdlingは篩管から一定の割合でいつも漏れ出しているスクロースの再取り込みを行うスクローストランスポーターを阻害することで、葉柄を経由する炭水化物の輸送を止めるようです。Peuke et al. 2006)。同様に、トウモロコシの葉の基部に高温の水蒸気をあてることで葉柄を経由した炭水化物の輸送を止めることによっても、葉に炭水化物が蓄積し、その光合成速度は低下します(Jeannette et al. 2000)。

 

 

なぜ光合成のフィードバック阻害が起こるのか?

 

 このような光合成のフィードバック阻害には生態学的意義が存在するに違いないのですが、いったいどのような意味があるのかよくわかっていませんでした(し、今もあまりよくわかっていません)。光合成のフィードバック阻害自体の意義も(理学的には)とても重要だと思うのですが、農学的、環境学的に重要なことは、高CO2環境下において葉に炭水化物が蓄積し、その光合成速度が下がってしまうことです。したがって、光合成のフィードバック阻害について明らかにすることは今後訪れる高CO2環境下での生態、農業生産性などに直結する重要な課題であるといえます。