CLE-CLV1下流因子の探索

 

2008-2013年の仕事で、僕はCLE-CLV1シグナルカスケードが低窒素下での側根の伸長抑制に機能していることを示しました。しかし、このCLE-CLV1はシグナルカスケードの一部であり、その上流、下流因子は不明です。側根の伸長を調節する直接的な因子を調べ、CLE-CLV1カスケードの全容を明らかにするため、現在はCLE-CLV1の下流因子の探索を行っています。

 

 

まず、CLE3過剰発現株とCol-0(対応する野生型株)、clv1変異株とLer(残念ながらエコタイプが異なります)の間の遺伝子発現の変化をMicroarrayを用いて解析し、CLE3過剰発現とclv1変異で反対の発現応答を示す遺伝子群を選抜しました(図1)。

 

次に、これらの候補遺伝子を過剰発現させた株を作成し、その根にフェノタイプを持つラインを選抜しました。さらにこれらのラインについて変異体を取り寄せ、その根の形態を調べることで下流因子の候補遺伝子を絞り込んでいます。

 

図1:マイクロアレイ解析

CLE3OX、clv1変異体で、発現量が逆に変化する遺伝子を候補として選抜し、その遺伝子の過剰発現株を作成した。

残念ながら、絞りこみすぎて今のところ候補になりそうな遺伝子は1つしか見つかっていません。そのひとつも、過剰発現させると側根が伸びるのに、CLE3過剰発現株で高発現しているというCLE-CLV1の下流としては正反対の反応を示します。残念ながらこの候補遺伝子は下流にはあっても傍流でしかないようです。しかし、フェノタイプは面白いので、現在はこの遺伝子について調べています(遺伝子名は成果が上がり次第公開すると思います)。

 

この候補遺伝子の過剰発現株では側根が長くなり、側根の重力屈性がおかしくなります(図2)。野生型では、側根は重力方向に対して45度程度傾いて伸長します(これをSet Point Angleと呼びます)。一方、この過剰発現株の側根は、真下を向いて伸びるようになります。さらに、この遺伝子の変異株の主根は、水平状態から50度ほど曲がったところで重力方向への屈曲を止めてしまいます。この結果は、変異株の主根が側根のようなSet point angleを持ち、過剰発現株の側根が主根のような重力屈性を持つことを示しています。現在は、この遺伝子の機能について詳細に調べることで、CLE-CLV1カスケードの役割、根の伸長と重力屈性の関連性、重力屈性の仕組みに迫ろうとしていますが、残念ながらまだあまりうまくいっていません。

 

 

図2:候補遺伝子の過剰発現株

過剰発現株は長く、重力方向に向かって伸びる側根を持つ。

 

最近の研究では、根の重力屈性が強くなるイネではその乾燥耐性が高くなることが示されています(Uga et al. 2013)。この遺伝子の研究が作物の乾燥耐性強化につながれば、農学研究所(IPKはオオムギの研究所)のポスドクとしての役目を果たせるんじゃないかと期待しています。