インゲン葉における糖による光合成抑制効果に窒素栄養が与える影響

 

光合成のフィードバック阻害と窒素栄養

 

葉の老化にともなう光合成能力の低下には、炭水化物が関わっている可能性があります(Ono et al. 2001, Araya et al. 2006)。この炭水化物の蓄積にともなう光合成抑制には、窒素栄養条件が関与している可能性が昔から示唆されていました。Paul & Driscoll (1997)は、炭水化物の蓄積にともなう光合成遺伝子の発現抑制が、特に窒素欠乏条件で栽培された植物で顕著であることを示しました。さらに、Weaverら(2004, 2006)は炭水化物の蓄積は、特に低窒素条件で老化関連遺伝子の発現を誘導することから、低窒素条件は炭水化物の効果を強めると考えました。

 一方、窒素欠乏条件で栽培された植物では、葉に炭水化物が蓄積します(Groot et al. 2003)。したがって、葉の窒素量と炭水化物量が葉の老化にともなう光合成能力の低下において、共に重要な役割を担っている可能性があります。

 

光合成のフィードバック阻害はデンプンによって起こる?

 

僕の2006年度の研究では、光合成のフィードバック阻害が、特にデンプンの蓄積する葉で顕著に見られました。以前からデンプンの蓄積した葉で光合成のフィードバック阻害が起こりやすいことは示されていたのですが(Nakano et al. 2000)、本当に葉のデンプン量と光合成の低下には関連性があるのかどうかきちんと示した仕事はほとんどありませんでした。本研究では、植物の窒素栄養状態と葉の炭水化物が、葉の老化にともなう光合成速度の低下に与える影響を明らかにするとともに、炭水化物によるフィードバック阻害におけるデンプンの役割を示すことを目的として実験を行いました。

 

 

実験方法

 

植物の栄養状態、炭水化物の量が光合成に与える影響を詳細に解析するため、インゲンを3つの栄養段階(6 mM、0.72 mM、0 mM NO3-)で栽培しました。それぞれの栄養状態で栽培したインゲンに5日間20 mMスクロース溶液を与える処理を行い、その後の初生葉の炭水化物、窒素含量、光合成速度の変化を播種後20日後にそれぞれ解析しました。

 

 

結果

 

高窒素条件(6 mM NO3-)で栽培した場合と比較して、低窒素条件(0.72, 0 mM NO3-)で栽培した場合には、初生葉に含まれる窒素量と、光合成速度が減少し、炭水化物量が増加しました(図1)。スクロースを与える処理は、初生葉の炭水化物量を増加させるとともに、その窒素量を減少させました。

 

図1: 光合成速度、デンプン含量、窒素含量の変化

 

糖処理によって、葉の光合成速度と窒素含量は低下し、炭水化物量は増加する(インゲンでは葉の炭水化物のほとんどがデンプン)。

 

さらに、光合成速度と窒素量、炭水化物量の関係を知るために、この3つの間で相関解析を行いました(図2)。初生葉の炭水化物量と光合成速度、初生葉の炭水化物量と窒素量にはよい負の相関が、初生葉の窒素量と光合成速度にはよい正の相関がありました。さらに、各窒素栄養間での初生葉の炭水化物量と光合成速度の回帰曲線の傾きを比較すると、窒素量が変化しても傾きは変化しないことが分かりました。もし、窒素栄養条件が糖による光合成抑制効果を強めるのであれば、窒素量が低いほど傾きは急になるはずです(図3)。この結果は、窒素栄養が糖による光合成抑制効果に影響を与えているのではなく、炭水化物量に影響を与えることで光合成に影響を及ぼしていることを示唆しています。

図2: 葉の光合成速度、炭水化物量、窒素含量の関係

 

葉の光合成速度、炭水化物量、窒素含量の間には相関関係がある。

 

図3: 光合成速度と炭水化物量の関係

 

窒素栄養が炭水化物の効果を“強める”のであれば、低窒素の時の光合成速度-炭水化物量の相関は高窒素の時と比べて急になるはずである(A)。しかし、実際にはどの窒素量の時にも傾きは同じである(B)。

 

一方、光合成と、炭水化物の各成分(グルコース、スクロース、デンプン)の間の相関関係についても調べました(図4)。光合成とよい負の相関があるのはデンプンのみで、グルコース、スクロースと光合成の間には弱い相関関係しか見られませんでした。この結果は、炭水化物による光合成の抑制効果はデンプンの蓄積量に依存していることを示しています。

 

図4: 光合成速度と各炭水化物の相関

 

デンプンと光合成速度に最もよい直線的な相関関係が見られる。

 

 

 

以上の結果をまとめて、2010年度に論文として発表しました。詳細は論文を参照してください。